新人賞受賞歴

1990年12月

第23回 集英社青年漫画大賞 佳作

「虫」

(週刊ヤングジャンプ1991年1月30日増刊号 掲載)

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「虫」(38ページ) あらすじ

 

 

 森の中の洋館で、全身をペインティングナイフで刺された青年の腐乱遺体が発見される。被害者は館の主人 大庭明。通報に駆けつけた捜査官は二階のアトリエの隅にキャンバスに埋もれた奇妙な腐肉の塊を発見する。弟 明殺しの加害者 兄 葉蔵だ。死因は餓死。その傍らには手足のもがれた甲虫の入った牛乳瓶がおかれていた。

 

 二年前……。売れない画家 葉蔵は、自分の才能に絶望し、特急電車に身を投げた。彼は一命を取りとめるが、右手と生殖器を残して手足は根本から切断され、顔面と全身は醜く潰れてしまう。

 

 芋虫のような体になった葉蔵を引き取ったのは、弟 明だった。明は兄とは対照的に、商才があり社交的だった。二人は陰と陽の関係であったが、強い兄弟愛で結ばれていた。

 

明は自宅の洋館の二階を、葉蔵のアトリエにする。葉蔵はここで再び絵筆をとるが、思うように描けない。そして手元にあった牛乳瓶に、目についた甲虫の手足をもぎ取って入れ、憂さを晴らしていた。

 

明はしばしば屋敷の一階でパーティーを開いたり、恋人を招いたりした。葉蔵はそんな弟に嫉妬を覚えた。ある夜、酔った女性客が誤って葉蔵のアトリエの扉を開け、悲鳴をあげて卒倒する。葉蔵はあらためて自分が「化け物」になってしまったのだと気づく。

 

 なだめる明に葉蔵は心情を吐露する。「殺してくれ! 俺はもう、生きていたくないんだよ!」「俺だって女が抱きたいよ! だけどどうにもならないんだ!」

 

 明は兄の苦悩を知り、葉蔵のため屋敷に娼婦を招く。彼女は葉蔵の醜い体を優しく受け入れ、彼と一夜を過ごした。

 

「こんな仕事をしてるといろんな人に出会うわ。お金持ちやら地位のある人やら。だけど、裸になればみんな同じ人間なのよね。うわっつらは立派でも、心の醜い人はたくさんいるわ。人間にとって大切なのは、形にならないものなのよ」

 

 

 葉蔵は涙して娼婦の胸に顔をうずめる。

 

 翌朝から葉蔵はふっきれたようにキャンバスに向かい、明るい画風の絵を描き始めた。その様子を見た明が、画商に絵を売り込んでみようかと提案する。葉蔵はひとつだけ条件を出す。

 

「絵はみんなお前が書いたことにしてくれ。俺は人前に顔をさらしたくないし、お客が逃げちまう」

 

 明は兄の言葉にしたがい、画商に絵を売り込む。「大庭明が描いた絵」は画壇で評価をあげ、やがてファンの女性から明にファンレターが届く。

 

葉蔵は明を名乗って返事を書き、文通を始める。彼女は彼に会いたいと言い、葉蔵は明に自分の代わりに彼女と会ってほしいと頼む。しかしその後、明と女性が親密な関係になると、葉蔵は明に激しい嫉妬と憎悪を感じる。

 

葉蔵と明の間には諍いが絶えなくなり、やがて明は葉蔵に件の女性と結婚をすることになったと告げる。明は彼女に、あの絵は兄の描いたものだったと明かしたと言う。

 

「あの子は、俺に会いたいとは言わなかったのか!?」葉蔵は叫ぶ。

 

 その夜、葉蔵は明の寝室に忍び込み、ペインティングナイフで彼をメッタ刺しにする。そして絶命した明に、「俺を置いていかないでくれ」とすがりつく。

 

 アトリエに戻り、キャンバスに埋もれて横たわった葉蔵は、昔、自分が手足をもいだ虫が、まだ牛乳瓶の中で生きていることに気付く。彼は虫に語りかける。

 

「俺のことを恨んでるか? 苦しかったか? だけどお前にゃ自殺もできないもんな。あわれなやつだ。好きだよ」――「お前だけは、友だちにしてやるよ」

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